Skyrimに学ぶ劇伴の在り方(と「赤のラグナル」の過酷さ)

スカイリムの音楽っていいね

最近、今更ながらに「The Elder Scrolls V: Skyrim」というゲームをプレイしました。本当に今更ですね。
スカイリムと言えば2011年にリリースされた大人気のRPGで、北米時間2012年2月14日付のプレスリリースによると「3つのプラットフォーム(PC・Xbox・PS3と思われる)合計で1000万本を超えるヒットになり、売り上げは約6億5000万ドル(約510億円)を記録した」のだそうです。空前の大ヒットというやつです。

私もリリース当初から何となくその存在を(前作に当たるオブリビオンと共に)知っていたのですが、2011年と言えばまさに東日本大震災で被災していた時期です。
なのでその存在と人気を知りつつもプレイする機会というのをすっかり見失っていたように思います。もっとも、その頃の私はどちらかと言うとCoD4やMW2の方に目が行っていたのですが。

で、スカイリム。
とにかく音楽が良いです。良いと言うか素晴らしいと言うか、むしろ「完成されている」と評した方が正確かもしれません。恐らく劇伴としては最高峰のひとつと言って差し支えないかと思います(私の中では)。出来栄え的には映画「インターステラー」のサントラといい勝負です。

スカイリムにおける楽曲はジェレミー・ソウル(Jeremy Soule)という方が担当していて、実に多くのビデオゲームに参加しているようです。「The Elder Scrolls」シリーズにおいては「The Elder Scrolls III: Morrowind」「The Elder Scrolls IV: Oblivion」、そして5作目にあたるスカイリムと歴代3作に関わっているのだとか。

スカイリムの音楽・BGMは基本的にオーケストラ編成ですが、徹底的に世界観に沿って作られているのだなというのがゲームをプレイしていて感じます。その最もたるものが楽曲の歌部分に用いられている独自の「ドラゴン語」ではないでしょうか。

いわゆる「雰囲気重視のミステリアスで、でもどうでもいい意味不明の造語」ではなくきちんと意味のつながる言語体系として(ある程度)成り立っており、ゲーム中でも主人公が使う「シャウト」というゲームシステムに組み込まれたり、ドラゴンがこの言葉で話すんですね。

BETHESDA GAME STUDIOSはいかにドラゴン語を作り上げたのか
https://elderscrolls.bethesda.net/ja/article/1rL4bCScN6RYXaXQb4ownj/how-bethesda-game-studios-made-skyrims-dragon-language

The Elder Scrolls Wiki:Dragon Language
https://elderscrolls.fandom.com/ja/wiki/Dragon_Language

ちなみに技術的な面で言えば、スカイリムのメインテーマである「Dragonborn」はドラゴン語のコーラス部分を30人編成で3回収録し、それを重ねて総勢90人編成のコーラスとしてMIXしているそうです。マイク何本立てたんだろうとか、さすが大御所はトラック数がエグいなあとか、ちょっと録音環境やMIX風景が気になります。

広大なオープンワールドである「スカイリム地方」のフィールドを歩いている時に流れるBGMたちも大変良かったです。雄大かつどこか哀愁漂うメロディの楽曲がメインなのですが、これらも主人公・プレイヤーの冒険やNPCたちとの会話・声を一切邪魔することなく「リッチな背景」として完全に他の要素と一体化・溶け込んでおり、素晴らしいなと感じました。

印象的である、と心に残る曲なのに決して自己主張が激しい訳でもなく。もし脚本があるのだとしたら、その脚本と完全に解釈が一致していると感じられる音楽ですね。個人的にはスカイリムの作曲者さんは金管楽器の使い方が効果的で、上手いと思います。

「赤のラグナル」いろいろ

そんな中、ユーザーやプレイヤーの間でネタになっている曲も存在します。「赤のラグナル」という、まあ順当にプレイすれば最初に辿り着くであろう村の宿屋にいる吟遊詩人・スヴェンに頼むと歌ってくれる歌なのですが……私も最初に聴いた時は「なんじゃこりゃ」と思いました。

声優さんはすごく頑張ったと思う。悪いのはローカライズ(とこれでOK出した、もしくは出さざるを得なかった収録現場)。

英語版の原曲も基本的に歌詞が詰め込み気味ではあるものの、まだマシ。
小ネタですが英語版の声優さん(Jason Marsden)はジブリ映画「千と千尋の神隠し(英:Spirited Away)」でハクの英語吹き替えもしている人です。

個人的な見解かつ結論から申しますと、外国語の歌を歌の内容・意味そっくりそのままに日本語で歌えるように訳すのは大変大変難しいものです。例として挙げるのに最適なもののひとつに日本唱歌の「蛍の光」があるでしょう。

アレは元々スコットランド民謡「Auld Lang Syne」を原曲として編曲・訳詞したものですが内容や言葉の選びなどは原曲とだいぶ違います。その時の世相や言葉遣い、そもそものコンセプト等様々な要因があったものの、かなり歌詞の意味が剥離しているんですね。

で、「赤のラグナル」についてはまずローカライズするとなった段階で歌詞の意味はほぼほぼそのまま「文章的に」訳されたのでしょう。しかし音楽や歌詞の翻訳、また作詞に関する専門家や詳しい人が居なかったのか元々の歌にあるメロディの音数との兼ね合いや、それによる調整などは一切行われなかったのだと推測します。
そしてそのまま、担当の声優さんに渡して多分声優さんがすごくすごく頑張って何とか現場であの歌の状態に収めてくれた、と。

私はゲーム音声の収録に携わった経験は無い(CMのナレーションがメインだった)ので何とも言えませんが、声の収録現場というものは基本的に言い回しやリズム等を考えて、収録中であっても声屋さん本人、その場に同席するディレクターやクライアント、そして録音を担当するミキサーやエンジニアそれぞれがそれぞれの視点から台本の内容に様々な提案を行いその場で原稿を修正していくことが多々あります。

それが無かったのか、「これが歌である」という情報がリーク防止のために収録直前まで明かされなかったのか、色々「こうだったのかなあ」と考える余地はあるんですけども。「日本語ですんなり歌える歌」として整形し直す時間も暇も無かったのかなとか。

しかしながら、噂によるとウィッチャー3(私はプレイしたことがない)のローカライズは歌とかその辺までしっかりやられているとか聞くし、そういえばボーダーランズ2のローカライズも基本自社製だけど歌とか含め全然違和感なかったよなとか、まあベセスダ製品のローカライズを担当するゼニアジに対する諸々の不満はあるものの。

文法も構成も全く違うふたつの言語の架け橋となるお仕事は大変なのだろう、という感想に至るのでした。

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